第六回「丹田物語 其の三」
脱線しそうですので話の続きをいきましょう。
チョ~(腸)能力を発現する腸は「腸管」という長い管ですが、その管にはナーバスシステムが何層にも、繊細な網目状に折り重なって組織され、腸管をコントロールしています。この様は、女性が足に穿いているナイロンストッキングを水道管に何枚も被せた状態をご想像ください。
丹田をして「腹脳」という言い方があります。大脳に対しての腹脳です。大脳のビックブレーンという言い方に対してリトルブレーンとも言われます。これは、実は理由があるからの言い方なのです。
脳脊髄神経系を「中枢神経系」と言いますが、脳は「副交感神経系」で、脊髄神経系は「交感神経系」です。この脊髄神経下部の腰椎四番・五番から仙骨にかけて、「仙骨神経叢」が下腹腔に分岐しています。この仙骨神経叢は脳と同じ副交感神経系です。
禅史上でも希な大悟徹底の悟境に没入された『聖中心道肥田式強健術』の創始者である肥田春充先生は、歴史上初めて「丹田」を生理解剖学上で解説し、図で明示されました。肥田先生は丹田の形成を「仙骨神経叢の覚醒である」と解説されています。肥田先生が大悟徹底されたのは大正11年6月で、それ以後は意識すると瞬時に大悟の境地に悟入され、心身が研ぎ澄まされ、「あらゆる難問といえどもたちどころに回答が浮かぶ!」という境地に至ります。この境地は戦前に纏められ、その中の一文に「釈尊大覚時の生理学的検討」なる論文様式の随想文があります。
その文を私なりに要約しますと、「ヒトはナーバスシステムの操り人形であり、自然随順の合理的な丹田の形成法とは、交感神経と副交感神経のスムーズな調整、交感神経と副交感神経の幅を大きくしてゆくこと、そのために脊髄の上下末端の大脳と腹脳の活性化が必須である」ということです。これが万物の霊長ヒトから神の子としてのヒトへのジャンプであると語られ、その方法を解説されています。
私自身はこの道統の第二代を継承された故肥田通夫先生の教えを受けた丹田人です。
この道統は伝統の「丹田」を形成すると共に、形成した丹田を「万芸の泉」として、生活の随所に活用することを主旨として学びます。この鍛錬の正統な学びでは、曖昧模糊とした言動は厳に慎まれています。インナーマッスルの中枢である「丹田」は見えないからこそ、生理・解剖・力学での解説が必要で、鍛錬中も曖昧な解説を止めるように注意されます。私は後継者の一人として育てられましたから、鍛錬用語には厳しく注意を受けました。しかしそのおかげで、正統の道を踏み外さずに今に到っております。
どのような学びごとでも、基礎こそその教えの終着点と言いますか、極意の入口です。初心の間は基礎とは何か?などと言われても、何が何だか理解できずにチンプンカンプンの???です。人生を左右する学びの基礎を例えますと、原理、原則、自然の摂理、物事の法則性などの無駄無理、虚装や毀誉褒貶などを排した合理性、または道ということです。
これを把握することは、物事を成立させている基盤を理解する思考を植え付けますし、実践においても目先の勝敗度外視の息長い活動を促すことに繋がるのです。すぐ役に立つハウツー的学びなどとは異なり、「急がば回れ」ですが、その回った分だけ人生の彩りを濃くし、五感で味わう内容を豊富にすると言えます。
まぁ~これは「読書百回意は自ずと通ず」というやつと同意語でもあり、初心で重要なのは腰の据わりで、ここでどれだけ頑張れるのかが将来の成功を決定付けるということであります。
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